解雇が有効であった事例(空調服事件)
今回は、解雇が有効として判断された事例を紹介します。(事件の争点については、解雇以外にも賃金未払いや精神的損害など複数ありますが、今回は、解雇のみを取り上げてます)
<事案の概要>
X社に入社したAが、試用期間中に、X社の全体会議において、「この会社の試算表や決算書は誤っている」と発言したことから、Aを解雇した。Aは解雇は無効と損害賠償を求めた。
<争点と判断>
X社の主張
1.Aの解雇は、契約書および就業規則の規定に基づき行われている。
2.経理処理に誤りがあるという情報は、企業にとって重大な極秘情報であり、それを認識した担当者であれば、その認識が事実がどうか確認する慎重な対応が求められる。また、その結果として事実であれば、代表者、担当役員など限られた者で極秘に対処法を協議し、実行するべきである。
しかし、Aは、慎重に行動せず、全体会議で突然発言を求め、指摘した。
そのAの行動から、「いつどこで何を言い出すか分からない、自分の行動のみが唯一正しいと思うような人物であり、一緒に仕事することはできない」と判断せざるを得ない。
3.このようなAの行動・性格は、採用にあたって事前に承知することができない情報であり、事前に承知していれば、採用は絶対にしない資質に関わる情報である。
4.したがって、解雇理由には、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当である。
Aの主張
1.社長の親族らが自分を嫌っており、そのために解雇されたため、合理的な理由はない。
1審(地裁の判断) 「解雇は無効」
Aの発言は、企業にとって重要な事項であり、慎重な配慮が必要である。また、自分の発言により役員や従業員を困惑させることは容易に推測できたはずであり、Aの発言は穏当を欠くものであったことは否定できない。
ただし、Aが悪意を持って発言したとは認められないこと、その後Aは、2回にわたり配慮が足りなかったと反省の意を示していることなどから、解雇の合理的な理由が存在するとは認められない。
2審(高裁の判断) 「解雇は有効」
AとX社は、雇用契約書を交わしており、試用期間は1か月(延長有り)、能力・技能・勤務態度・健康状態について不適切な場合は、採用を取り消す旨の記載が認められる。
Aを採用した目的は、総務や経理の経験を有しており、労務や経理の人事・財務・労務関係の秘密や機微に触れる情報についての管理や配慮ができる人材であることが前提とされていたと認められる。
しかし、Aの「試算表や決算書に誤りがある」という発言は、その存立にも影響を及ぼしかねない重大事であり、自己の認識に誤解がないか専門家などに確認して慎重な検証を行い、誤解がないとなれば、限定されたメンバーで対処方針を検討するという手順を踏むことが期待される。
にも拘わらず、Aは、自らの経験のみに基づき、上記の手順を踏むことなく、全社員の事務連絡の情報共有の場に過ぎない席上で、突然「試算表や決算書に誤りがある」と発言したことは、組織的配慮を欠いた自己アピール以外の何物でもない。
また、Aは、自己の発言が不相当なものであることについての自覚が乏しい。
以上によれば、Aは、総務関係の担当者として資質を欠くと判断されてもやむを得ないものであり、解雇には合理的な理由が存在し、社会的に相当である。